ウィーン・スクール・オブ・オステオパシーの創始者、ラファエル先生から聞いたお話しで、心からはなれないことがあります。
それは、アルゼンチン共和国の南部、パタゴニア地方の狩猟民であるテウェルチェ族(Tehuelche Indian)にまつわるお話しです。
パタゴニアの国有保護地区にはたくさんの土着民族が存在するそうですが、その中でも常に服を着ずに生活する種族のお話しでした。
彼らは、かなり気温が低い季節でも、毛皮や葉っぱなど着るものを一切まとうことなく、猟をしていました。
河で魚をとったりもするそうですが、なぜ寒くないのか!?
それは、全身にくまなくオイルを塗り込む習慣があるからなのだそうです。オイルを沢山塗り込んでいるので、水をはじき体が濡れないのです。
ところが、ヨーロッパからやってきた現代人が、この種族に接触しはじめてからというもの、人口が激減してしまったのです。
そしてやがて、絶滅してしまいました..。
一人残らず。
それは、なぜでしょうか!?
人の善意が種族を絶滅へと追いやった
ある白人の宣教師がこの地域を訪れました。
宣教師はテウェルチェ族を見て、こんな寒い土地に住んでいるのに衣服を身につけていないことをとても気の毒に思いました。
これが、ことの発端です。
テウェルチェ族を哀れに思った宣教師は、この種族に、都会から衣類を送ってやることに決めたのです。
洋服を手に入れた彼らは、川に魚をとりに行く時にも服を着用しはじめました。
そして....次々に疫病にかかり死んでゆきました。
洋服を着だしてからというもの、彼らは体にオイルを塗らなくなってしまったのです。
何万年もの間、この種族に引き継がれてきた風習をやめてしまった結果、病気になって全員種族が死滅してしまいました。
この地方のこの気候で生活するには、オイルをたくさん塗ることが健康に過ごすためには必須の知恵だった。
でも突然、見知らぬ誰かがやってきて、それをやめさせるようなことをしてしまった。
とても悲しいことです。
宣教師は優しさで行なったことなのに、このような結果を望んでやったのではないはずなのに。
私たちも皆この宣教師になりうる
同じ様なことは、時代を超えて続いています。
私達の身の回りにも起こっています。
このパタゴニアの種族のように、善意から不幸な結果になってしまったのならまだしも、現代ではとかく自分の考えが一番正しいという思い込みから、負の方向へ進んでしまうことの方が多いのではないでしょうか。
「自分がいいと思ってることは他の人にとってもいいに決まってる」というエゴイストな思考から生まれた行動のせいで、同じ様に悪い結果を招いてしまう事も多々あります。
そんなことを考えていたら、15年以上前のある出来事を思い出しました。
ハワイのプールサイドで、隣に寝そべっていたアメリカ人の中年男性は、聞いてもいないのに自分の自慢話を鼻高々にしはじめました。
アフリカで農薬を広める活動をしているという話題。
「俺はアフリカの未開人達に農薬を教えてやったんだ」
「あいつら、ありがたがっているに違いない」
「これからアフリカ全土に広めてやろうと思ってる」
私はその話しを聞きながら、ワナワナ震えるほど怒りと悲しみの気持に苛まれました。
ただ単に農薬を大量に売りたいだけなのに、自分のビジネスのためにマーケット開拓してるだけなのに、偽善者ぶってハワイのプールサイドで美女(!?)に自慢話。
一緒にいた友人が元スッチーで接客癖が出てしまい、ずーっと話しを笑顔で聞いてあげていたから、ずーっと自慢話が続いてしまって、私はそれこそオエッとなりそうでした。
とはいえ、自分自身でも気をつけなければならないと思っています。
人のことを批判できる立場ではありません。
知らないうちに善意でやったことが負の結果を招いてしまった、ということが小さくてもあるかもしれません。
誰もが小さな勘違いを起こした経験があるとおもいます。
特に、大切な人に対しては、そういったことを “してあげて”しまうことって、あると思います。
間違ったことをしてしまったと気づいた時点で、修正をしていくことが大切です。
キューリー夫人がラジウムを発見し放射能を発案してくれたのも、未来のためだったと思います。
そのよき想いを継承していけるように、修正していくこと。
それが今生きている私達ができること、ですよね。
自然を破壊し、いろんな生物に迷惑をかけ、人間の健康を害するものとして商品化されてしまったキューリー夫人の発見。
「もう使うのやめたい」と多くの人が思ってるのに、いろんなしがらみでやめられなくなっている。
だけど、きっと修正していけるはず。
パタゴニアの裸の種族は絶滅してしまったけれど、私達はきっと大丈夫。
善意が悪い結果を招くときだってあるけれど、修正していけばいい。 私たちは修正できる。そう信じていきます。