「名前を変えたら人気が落ちた」(もしくはその逆)という話を、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
「使う言葉によって心身の健康状態が変わる」という現象について研究している私にとっては、とても興味深いことです。
マーケティング系の名付けについての本を読んでも、あまりピンとくるものが無かったので、最近ちょこちょこ絶版になった本を買っています。
「言葉を発するときの “音” がイメージを伝える」ということを世界初で研究してこられた方の音相についての絶版本もその一つ。面白かったので追加でもう2冊、同じ著者の絶版本を買い足したほどです。
「言葉」の意味そのものと、与える「イメージ」の関係を、科学的な根拠によって明らかにした理論だそうです。
言葉についての奥深さについては語ることができませんが、興味深かったところを紹介させてください。
言葉の音が放つ表情を調べる研究
音相とは、言葉が作る「表情」と「音」の仕組みの関係を、音声学や統計学の手法を借りて明らかにした理論。
通常のネーミングにおいて見逃されている「感性」の部分を新たな認識のもと、科学的な根拠によって明らかにしたもの。
【歴史】
言葉の音が表現するイメージについては、紀元前4世紀以後「フィジス説」として研究されていたそうです。鎌倉時代にも「音義説」として研究されていました。いずれも、客観的な根拠が得られず途中で頓挫した研究でした。
【現代】
音相の研究では、膨大な音の組み合わせについて、コンピュータ・システムを構築することで分析を試みているそうです。
言いにくい言葉が流行らないのはなぜ?
「音」の優れた言葉は生き残って、よくない言葉は死語となって消えていく傾向があるとのこと。その選択は「大衆」によって行われるのです。
音相は「大衆」の平均的な語感感覚で作られているからです。(大衆とは消費者やマスコミの受け手として常に受動的な立場をとる無組織の人々のこと by木通隆之氏)
ネーミングは一年もたつと意味の良さなど忘れられてしまう。音の感じの良さだけが価値として残っていく。
人々が口にしたくなる言葉だけが残っていく傾向があると、著者は述べています。口にしたくない言葉として例が挙げられていました。
😵💫口に出して言う気にならない名称⇨(うししのし、気になるゴリラ、うつるんです、など)
🤮舌がもつれて言いにくい名称⇨(バスジフ、ペプディエット、ゆとりにとろん、など)
人々が口にしたくなる良い名称
人は、その名前の「音がつくるイメージ」と、「そのもの(商品や名前)の持つイメージやコンセプト」の間に、なにかしら関わりを感じると、それに対して親近感や好感を覚えるようになるそうです。
市場に出す商品なら売上アップとなり、芸能人の芸名なら人気が出るということです。
ネーミングは、意味よりも「音が大事」だということがよくわかりました。
ちなみに、「言葉の表情/イメージ」は「語呂がいい」のとは別物。まったく違うセオリーなので、ここは注意が必要な点です。
また、名称の「一語」だけを捉える分析は、ナンセンスでお遊びに過ぎないということでした。
ここから先で、もう少し詳しくお話ししますね。
*言葉にまつわるその他の記事⇨
言葉の音のイメージが伝わるネーミング
ことばは五十音だけでなく、さまざまなグループに分けられます。
無声音(声帯を振動させずに出すパタカサハ行音。
有声音(声帯を振動させて出す上記以外のすべての音。
破裂音(強い響きのパタカ行音)
摩擦音(サハヤワ行音)
鼻音(マナ行音)
流音(ラ行音)
清音
濁音
などなど。
さらに、
暗い vs. 明るい
どちらでもない
強い vs. 弱い
に分けられますが、これらを組み合わせると「明るくて強い・明るいが弱い・暗いが強い・暗く弱い・明るくも暗くもなくて強い・明るくも暗くもなくて弱い」の6とうりのパターンができます。
例えば、明るさを強めたいなら、明るい音+明るい音のダブルで「めっちゃ明るい」をイメージさせることもできる。
ちょっと挙げただけでも、ことばは複雑な構造をしていることが分かります。だから、ことばや名称は、全体として分析することが大事。
たった一語を抽出して、単純に一音のみを分析するようなことはナンセンスだという説明がされていました。
言葉に対する感性が衰える考え
「ガ」は男児が好むとか、「マ行」は母性的などと、安易な方法で捉えてメディア発信されていることがあり困惑していると、著者が訴えておられました*。
また、「濁音は暗い音だからなるべく使うな」「特に語頭に濁音をおくのはダメ」という思い込みも日本で深く定着してしまっている様です。このような考えは、言葉の音相が作る表情の一面しか捉えておらず、間違えであると主張されていました。
「濁音」は、暗さの他にも「落ち着き、重厚感、豪華さ、優雅さ、穏やかさ、暖かさ」も同時に合わせ持っています。
このような固定的なイメージを人々に植え付けて欲しくない。日本人が言葉の奥深さについて考えるきっかけを失ってしまうと、懸念しておられます。なぜなら、
1つの単音は、10から20もの複数の表情を持ち合わせているからです。
例えば、「S」の音は、清らか、左泡やか健康的、安らぎ感、など様々な表情を持っていますが、この単音Sが他の音と響き合うと、これらの中のどれかが「表情」となって伝わってくる、という仕組み。
言葉の音は複雑な構造でできているので、一音だけで判断すべきでないとのこと。勉強になりました。
人が長所も短所も両極面を持ち合わせているように、全ての事象は陰陽あわせ持っている、ということを思い出しました。
言葉の音の構造と、音がつくるイメージの間には、とても複雑なものがあるため、一語だけで単純に考えないように気をつけようと思います。
言葉は人にしか生み出せない
とてもも印象に残ったことがあります。
人間にしか「ことば」を生み出すことができない。
著書の中でこのように主張されていたことが印象的でした。コンピュータは言葉を生み出せないというのです。機械でできるのは、人が生み出した言葉を細かく分析することだけ。
日本語の音節には五十音の他、濁音、半濁音など138の音節(拍)があります。ここから例えば5文字のことばを生み出そうとすると、100億語以上の組み合わせができてしまうのです。この中から選ぶのは人的作業なのですが、これはほぼ不可能。
やはり言葉やネーミングを作るには、人間が感性をフル活用して生み出すしかないのです。(AIが作れるのは文章のみ)
とても尊いことだなと感じました。
それと同時に、思ったことがあります。
そうであれば、他人の文章をパクる行為や知的財産権の侵害というのは、本当に罪深い行為だよな〜と。
話がちょっと外れてしまいますが...
私のような駄文でも完コピされたり、ですますを変えただけのリライトを投稿されたりすることがありました。基本的に放置してきましたが、「もっと怒るべき」ことなんだ!と再認識できました。
コピーライトや知的財産権にもっと真剣に向き合える文化であることを望みます。
言葉の感性を育む【まとめ】
名前やネーミングなど言葉をつくる際には、意味を考えるだけでなく、必ず「音」の持つイメージを、コンセプト(伝えたいこと)と一致させることが大切です。
一つの単音だけで判断せずに、言いにくさ、言いやすさ、気持ちよさ、などを考えます。そういう感性を身につけるために必要なことを著者はこう示していました。
1.言葉の音をもっと意識してみる
同義語や類義語の中から「文脈に最もふさわしい音を持つ語はどれかな?」と、普段から考えて、習慣づけていく。リングと言うのと、指輪と言うのとでは、どんな違いを感じるかな?など。
2.難音感を聞きわけてみる
普段から話している時に「言いにくい」箇所があるかどうかを意識する。例えば「竹立て掛けた」などの難音があると、文脈の流れを壊してしまうので、できるだけ使わない方がいい。それをしっかり認識するということです。
これらを続けていこうと思います。音の表情については、今後とも学びたい分野です。
「言葉のもつ心」のことを思いながら、自分の心を伝えていける様になれるかもしれません。
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